美容業界の求人には「面貸し・ミラーレンタルOK!」という文字を最近よく見かけるようになりました。
日本ではまだ馴染みの薄い言葉かもしれませんが、海外の美容業界で働く人たちにとってはメジャーな働き方であり、都心などの美容室やサロンでは増えてきています。
『ミラーレンタル』とは『面貸しシステム』とも呼ばれ、美容室やサロンなどの余っている椅子やベッドを『間借り』してフリーランスとして働く働き方です。
従来の日本であれば正社員として美容業界に入り、独立して自分の店舗を持つというのが一般的な働き方でした。
また女性であれば正社員として美容室やサロンに就職し、結婚・出産などを経てアルバイトやパートタイマーとして職場復帰するというのが一般的な働き方でした。
現在の日本において、サービスやモノ・場所などを多くの人と共有・交換する新しい社会的な仕組み『シェアリングエコノミー』が浸透してきています。
『面貸しシステム』や『ミラーレンタル』とはまさに美容業界のシェアリングエコノミーといえます。
今回はミラーレンタルの働く側・オーナー側のメリット・デメリットについて解説していきます。
ミラーレンタルと業務委託の違いは?
ミラーレンタルとはフリーランスとして働くことですが、業務委託と何が違うのでしょうか?
まずは業務委託の特徴からみていきます。
業務委託とは?
まず業務委託についてですが、店舗に直接雇用されているわけではないのでフリーランスの美容師であるという意味では同じです。
委託業務の場合、店舗側が集客をしてくれます。
そのため売り上げも店舗の収益となります。
また労働時間についても店舗側に依頼され決められることが多いです。
基本的にお給料は固定給ではなく、歩合で施術単価の何割といった場合が多いのが特徴です。
また集客に関しては広告代理店を通して安く集客している場合が多いので、顧客単価が下がるのが特徴です。
ミラーレンタルとは?
一方ミラーレンタルとは美容室やサロンの一角をレンタルし、自分の使う椅子やベッドに対して使用料を払うという働き方です。
業務委託に対してミラーレンタルは、フリーランスの美容師自身が集客をおこないます。
そして顧客単価も自由に決められます。
しかし集客は自分で行わなければならないため、広告費や営業は自身でおこなわなければなりません。
そのため既に顧客を持っているフリーランスのスタイリスト、独立するまでの資金を貯めるまで働きたい、経験を積みたい人、時間に縛られずに自由に働きたい人、指名客のみを顧客にしたい専業主婦などに向いています。
ミラーレンタルの使用料について
ミラーレンタルの使用料の料金形態は主に3つの料金形態となっている場合が多いです。
1,時間貸し
利用時間に対してサロン側に使用料を払うという料金形態です。使用料は1時間当たり1500~2000円が相場です。
売り上げに関わらず、金額が決まっているので一定額の支払額ですみ、気軽に借りることができます。
しかし貸し出し側のオーナーがシビアだとストップウォッチを持って計っていたり、時間がきになってしまうのがデメリットです。
2,歩合貸し
売り上げに対して歩合で使用料を支払う料金形態です。多くの店舗で歩合貸しを導入しています。都心と地方によって違いは出ますが、顧客単価の50~60%が施術者の手取りになるようです。
単価が安い場合であれば歩合貸しのほうが安く借りることができます。
時間制ではないので、時間を気にせず施術に集中することができます。
一方で単価が上がると支払額が上がり、売り上げを上げれば上げるほど使用料が上がってしまうというのがデメリットです。
店舗側のデメリットとしては、本当にその料金でやったのか施術料金の確認が取りづらいということです。
3,月額貸し
月額決まった金額をサロンに払うという料金形態です。
場所によって違いが出ますが5~12万程度と考えてよいでしょう。
水道代や電気代などは契約によって異なります。
固定の賃料なので売り上げを上げれば上げるほど自分の手取りが増えます。
しかし安定した顧客と売り上げの確保が必要になります。
どの貸し出し形態があっているかは、借りる側の顧客の数や値段設定によります。
ミラーレンタルのメリット
美容業界のシェアリングエコノミー、ミラーレンタルですが、オーナー側、顧客側のそれぞれにどのようなメリットがあるのでしょうか?
サロンの回転率が上がる/少ない金額で独立できる
実は美容室の数はコンビニよりも多いといわれており、現在日本に約24万店舗あります。
年々店舗数は増えており、供給過多となっているのが美容師業界です。
一つの美容室に対しても、イスが余っているのが現状です。
余った椅子を有料で貸すことにより、店舗側は美容室の売り上げ以外にレンタル料(家賃収入)を得ることができるのです。
美容師は長時間労働で少ない賃金で働くという雇用形態のところが多いため、独立したいと思っている人が多いのです。
また美容室を1から準備して独立開業しようと思うと、400~600万円ほどの開業資金が必要といわれています。
そして3年以内に90%の美容室が廃業しています。
美容師として技術も経験もしっかり積んできたけれど、開業資金の問題や経営ノウハウに不安があるという人も多いものです。
ミラーレンタルは既存のサロンの一部をレンタルするため、独立開業するには比較的リスクが抑えられます。
また店休日にミラーレンタルするという美容室もあります。
お客さんとしても、普段美容室が休みのことが多い月曜日や深夜の時間帯にも施術をしてもらえるといのは魅力的です。
これはサロンオーナーからしてもフリーランスの美容師にとっても、ミラーレンタルは理にかなった働き方といえます。
フリーランスの美容師側のメリット
直接雇用されるよりも収入を大幅に上げることができる可能性がある
美容室に就職し、アシスタントを2~3年経てスタイリストになり、そこから数年をかけて店長という役職がついたスタイリストの平均月収は35万円前後といわれています。
しかし指名の多くて歩合だともっと稼げるという人気のスタイリストは月収100万円を超えることも可能です。
また多くのミラーレンタルしている美容師が就業時間が減ったのにもかかわらず、収入が増えたと言っています。
店舗に雇われる場合、営業前に店舗の清掃やミーティング、営業時間後にレッスンや教育指導の時間が社員などの美容師には多く時間が使われるためです。
これらの時間がなくなるため、接客と施術のみに時間が使えるので給料が上がり就労時間が短くなるという美容師が多いのです。
自由度が高く、副業としても働きやすい
店舗に雇われているわけではないため、休日や出勤時間を自由に決めることができます。
顧客管理さえしっかりしていれば長期で休みを取って旅行に行くことも可能です。
一度美容師を離れてしまった家庭を持つ主婦の人でも復帰しやすい環境です。
店舗を構える必要がないので、特に若いスタイリストたちに人気の働き方です。
一人のお客様に対して最初から最後まで接客することができる
店舗に雇われている場合、一人前のスタイリストになるとシャンプーはアシスタントの仕事になり、ひとりのお客様に付きっ切りで接客ということはしなくなることが多いです。
カラーやパーマなどもアシスタントが手伝う場合が多く、お客さんのイメージが的確に伝わらないというクレームを減らすことができます。
これはお客さん側にとっても大きなメリットといえます。
人間関係の煩わしさがない
ミラーレンタルの美容師になれば、会社に雇われているわけではないので自由度が上がります。
上下関係が苦手だったり、お店の中での集まりごとにも顔を出す必要がありません。
加えてある程度の経営方針は自分で決められるので自分にあった接客をすることも可能になります。
経営のノウハウを勉強することができる
ミラーレンタルの美容師はフリーランスの美容師です。
雇用されている間は考えなくてよかった保険や経費の処理も全部自分でしなければなりません。
自分でお店を構えた時に必ず必要になる知識です。
また一度自分のお店を持つと閉めるのも大変です。
立地が合わなかった場合など、ミラーレンタルだとすぐに店舗を変えることができます。
しかし自分でお店を構えてしまうと簡単に移転できないからです。
ミラーレンタルするオーナー側のメリット
雇用保険などの減額、消費税の納税負担を抑えることができる
ミラーレンタルは直接雇用ではないため、雇用保険や社会保険などの保険を用意する必要がありません。
源泉徴収や住民税の管理もしなくてよいので事務作業を簡素化することができます。
またミラーレンタルで働く美容師は『給与』ではなく『外注費』になるので仕入れ税額控除が受けられるため消費税の納税負担を減らすことができます。
人件費を抑えることができる
ミラーレンタルをする美容師は、ほとんどの美容師がきちんと技術を身に着けており、顧客を抱えています。
そのため研修にかかる費用を抑えることができます。
ミラーレンタルのデメリット
借りる側・貸す側だけでなく、お客さんにとってもメリットがたくさんあることをここまで述べてきましたが、ほんとにメリットばかりなのでしょうか?
ここからはオーナー側・美容師側のミラーレンタルに関するデメリットをあげていきます。
美容師側のデメリット
収入の保証がない
直接雇用されている美容師はお店が忙しくてもそうでなくても、基本給がもらえるので給料のもらえない月はありません。
しかしミラーレンタルの美容師は集客できなければ収入がゼロになってしまう可能性もあります。
たくさん集客できた月は収入が多くあるけど、少なかった月はお給料が少なくなり、収入は直接雇用されるよりも不安定になります。
保険や確定申告など自分ですべてする必要がある
直接雇用の場合、社会保険や雇用保険、厚生年金など管理は会社がやってくれるため個人で行う必要はありません。
しかしミラーレンタルの美容師はフリーランス、個人事業主になるため経費の管理や保険料の支払い、確定申告を自分で行わなければなりません。
税理士に頼む場合はお金がかかってしまいます。
1からサロンを作れる訳ではないので独立した感が少ない
ミラーレンタルは既存のお店の1席を借りるので内装や機材など、自分のこだわりを出すことが難しくなります。
収入は店舗とは別ですが、独立した感は自分の店舗を構えるよりも低くなります。
集客や宣伝・営業を自分でしなければならない
社員として働く場合、広告などの宣伝費は会社が負担していましたがミラーレンタルになると自分で集客をしなければなりません。
ブランディングも店舗に直接雇用されていた場合、お店側に任せることができます。
またクレームやお客様とのトラブルにも自分ですべて責任を負わなければなりません。
ミラーレンタルでフリーランスとして働く場合、自分の責任は全部自分で負うという覚悟が必要です。
オーナー側のデメリット
ミラーレンタル契約までの書類や準備が必要
ミラーレンタルは請負契約にに含まれます。
そのため税務署と労働基準監督署に対し請負契約であることを証明しなければなりません。
請負契約書などの準備や申請の手間がかかります。
店舗のイメージが損なわれる可能性がある
直接雇用していなかったとしてもその場にいるスタイリストは「○○サロンのスタイリスト」というイメージを持たれてしまいます。
施術や接客のクレームがミラーレンタルのスタイリストに出た場合は本人が対応・処理をおこないますが、店舗全体のイメージダウンになる可能性もあります。
必ずしもそうとは限りませんがそのようなリスクもあり得るということを認識し、ブランドイメージに影響が出る可能性も考えておかなければなりません。
スタッフ同士の共通概念がないため雰囲気を作りづらい
直接雇用の従業員とフリーランスの個人事業主が同じ空間で働くため、スタッフ同士の共通の概念がなくなります。
それぞれの店舗にコンセプトや企業理念がありますが、ミラーレンタルのスタイリストには関係のない話です。
そのため目指すものが異なるスタイリスト同士が働くため店舗の雰囲気作りに苦労することもあるかもしれません。
ミラーレンタルが日本になかなか普及しない理由と今後
このミラーレンタルという働き方は最近始まったものではなく、実は日本で20年前から導入されていた働き方でした。
新型コロナウイルスの影響により従来の働き方の見直しがおこなわれる昨今ですが、ミラーレンタルがあまり普及していないのはなぜでしょうか?
それはミラーレンタルの利用料が高いという点です。
多くの店舗の場合、利用料は50~60%ほどなので仮に50万1カ月で売り上げたとして手元に残るのは20~26万ほどです。
そこから交通費、備品代、保険料を支払うと手元にほとんどお金が残らないということもあり、雇用されている美容師のほうがお給料がよかったということになりかねません。
ミラーレンタルで独立した美容師の最初の売り上げは約50~60万円ほどといわれており、リピーターを作るまでは苦労がともないます。
また日本はまだまだ終身雇用の文化が根強く残っています。
非正規雇用の社会的信用は正社員ほどはありません。
ミラーレンタルという働き方はまだまだメジャーになっておらず、世間的によくないイメージを持っている人も多いのかもしれません。
しかし最近はミラーレンタルでも集客もやりやすくなり、需要も増えています。
フリーランスの美容師自体も増えてきており、『面貸し(ミラーレンタル)OK』で検索すると日本国内に1000店舗以上の美容室が募集しています。
1000店舗もあればその人にあったお店を見つけることができるでしょう。
まとめ
ミラーレンタルについて理解が深まったでしょうか?
●ミラーレンタル(面貸し)は空いている美容室やサロンのベッドをスタイリストに有料で貸すことであり、空きのあるサロンにとってもフリーランスのスタイリストにとっても都合のいい働き方
●ミラーレンタルは美容業界のシェアリングエコノミーであり、20年前から存在する働き方
●業務委託とミラーレンタルは同じフリーランスであるが、ミラーレンタルのほうが集客や労働時間が自分次第で自由度が高い
●フリーランス美容師にとって収入が安定しない、保険料や経費の計算などのデメリットがある
●オーナー側にもミラーレンタルの申請の義務など、デメリットもある
最近ではメジャーになりつつある働き方なので、気になった人はいろいろと調べてみてください。