現代の日本において一般的に普及している西洋医学は、化学薬品や手術・医療機器を用いて即効性のある処置をおこないます。
一方東洋医学はヒトが本来持っている自然治癒力を高め、病気を防いだり治癒させる方法です。
同じ医療ですが病気に対する考え方やアプローチが異なります。
患部のみを見る西洋医学に対して、東洋医学は「未病を防ぐ」という考えに基づく医療です。
東洋医学を扱う仕事として、柔道整復師・鍼師・整体師・あん摩師・きゅう師など、さまざまな職業があります。
柔道整復師という名前は聞いたことがある人も多いと思いますが、いったいどのような仕事であり、整体師と何が違うのでしょうか?
今回は柔道整復師という仕事について、詳しく解説していきます。
柔道整復師とは?
柔道整復師は『接骨院・整骨院の先生』として知られている職業です。
『ほねつぎ』と呼ばれることもあります。
資格がなくてもなれる整体師とは違い、柔道整復師は国家資格が必要です。
柔道整体師のおこなう治療には保険が適用になりますが、整体師にかかるときには基本的には保険は適応になりません。
柔道整体師は接骨院や整骨院において、スポーツや不慮の事故による捻挫や骨折、打撲や脱臼などを出血を伴わない『非観血的療法』を用いて治すことができます。
骨、筋肉、腱、じん帯、関節包、椎間板などの関節円板や関節半月、関節軟骨を対象に、骨折、脱臼、突き指やぎっくり腰などに施術をおこなっていきます。
施術は『整復』『固定』『後療(手技療法・物理療法・運動療法)』が主な治療法であり、これらをもってヒトに本来備わっている自然治癒力を高めていきます。
外科医のように出血を伴う手術はできません。
また骨折と脱臼に関しては応急手当時を除き医師の同意を必要とし、レントゲン撮影や投薬をすることはできません。
柔道整復師の仕事内容
柔道整復師の施術範囲や対象は一般の方だけでなく、スポーツトレーナーとしてプロのスポーツ選手への指導やケアなど、多岐にわたります。
仕事内容は患者に症状を聞く『問診』から始まり、患部を観察する『視診』、そして直接患部を触って状態を把握する『触診』へと進んでいきます。
柔道整復師扱える施術方法は仕事は『整復法』『固定法』『後療法』です。
整復法
骨折や脱臼により骨が折れた、関節が外れた個所を手術をせずに元に戻す方法です。
骨折や脱臼の場合は応急処置を除いて医師の許可が必要です。
応急処置の場合、レントゲン画像もない状態で施術をしなければなりません。
患者さんの話をよく聞き、不具合のある部分をよく観察し、周りの神経や血管を傷つけないように施術する必要があり、高度な技術が求められます。
固定法
骨折してしまった骨や脱臼してしまった個所に三角巾や包帯、副木などで固定する行為です。
負傷している部分の腫れ、血管や神経の圧迫を防ぎます。
また患部を冷やして腫れや細胞の壊死を阻止したり、内出血や腫れを防ぐために圧迫したりすることもあります。
後療法
ケガをする前の状態に戻すための施術のことをいいます。
主に『物理療法』『運動療法』『手技療法』の3つの療法が用いられます。
●物理療法…電機や光、冷却や温熱、超音波などの物理的エネルギーを使って施術をおこないます。
●運動療法…リハビリにより筋力の向上や動きを取り戻すための訓練をおこないます。
●手技療法…マッサージなどの手技を用いて身体を動かしやすくする施術をします。
なぜ『柔道』と名前がついているの?
柔道整復師の手技療法、整復術は ”柔術” と関りが深く、東洋医学と現代医療の影響を受け発展してきました。
柔道整復師の主な仕事である “骨折や脱臼の治療法” は奈良時代、10世紀末に書かれたとされる『医心法』に記述されています。
そこから戦国時代になり、戦国時代の『柔術』が現在の柔道整復い影響を与えているといわれています。
柔術には敵を殺傷するための『殺法』と、殺法に対して相手を活かす医術・蘇生術の『活法』がありました。
柔道整復は『活法』がベースになっているといわれています。
江戸時代に入るとオランダから西洋医学の影響を受けた接骨術が現れます。
このころから西洋医学・東洋医学が融合し、現在の『柔道整復』の基礎が出来上がったとされています。
明治維新以降は西洋医学を主体とする医療制度の整備が行われます。
そのため東洋医学を取り入れた柔道整復は衰退の一途をたどり、一時は存続の危機に陥りました。
しかしこれに危機感を覚えた柔道家たちの運動により、大正時代に『柔道整復師』としての職業が国家資格として認定されました。
柔道を心得ているものは当身技や投技、関節技などの技や構えを知っているため、身体の取り扱いに精通しています。
身体の取り扱いに精通していることから薬や手術に頼らず、身体の構造に基づいた自然な治療法を施すことができると注目を集めてきました。
かつては柔道の教授をなす者だけにしかその資格が与えられませんでした。
しかし様々な法の改正により、現在では柔道の心得がなくてもゼロから学べる体制が整っています。
最近は女性の柔道整復師も増えており、医療人が働く現場は時代とともに変化してきています。
また柔道整復師のおこなう柔道整復は『Judo Therapy』と海外ではいわれており、WHO(世界保健機関)に認められている日本の伝統医療です。
身体に優しく、コストも抑えられるため、世界でも広く注目を集めています。
柔道整復師になるには
柔道整復師になるには国家資格が必要です。
厚生労働省が実施する国家試験に合格しなければ柔道整復師になることはできません。
一方、整体師には国家資格がないため、資格がなくても未経験でもなることができます。
柔道整復師は医師と同様、接骨院や整骨院を独立・開業する権利を与えられます。
また保険適応の施術をすることが許可されます。
保険が適応になるのは骨折や脱臼などのケガ、交通事故・就労中・就学中の事故などであり、慢性的な肩こりなどには適応になりません。
国家試験の受験資格を得るには高校卒業後、柔道整復師養成施設として認定されている専門学校、短大、大学で3年以上知識と技術について勉強する必要があります。
カリキュラムは座学だけでなく実践も含まれるため、通信教育で国家試験受験資格を与えてもらえません。
柔道整復師の国家試験合格率は毎年65%前後です。
かつては90%前後であり、難易度としては上がっているかもしれませんがきちんと勉強して試験に臨めば決して難しい資格ではありません。
国家試験は年に1回、毎年3月に実施されています。
試験内容は以下の通りです。
・生理学・運動学・病理学概論・衛生学・公衆衛生学
・一般臨床医学
・外科学概論
・整形外科学
・リハビリテーション医学
・柔道整復理論
・関係法規
柔道整復師の活躍の場
現在世界中から柔道セラピーとして注目が集まる柔道整復師の仕事ですが、柔道整復師として働く現場はどのような場所があるのでしょうか。
実は柔道整復師はさまざまな場所で活躍することが可能なのです。
接骨院・整骨院
柔道整復師の多くが働く職場です。
地域医療に貢献する場として子供からお年寄りまで老若男女問わず、さまざまな患者さんが訪れます。
目的も保険適用の範囲内で骨折や捻挫・打撲など一時的なケガの治療をする人もいれば、自由診療の保険適応外で慢性的な肩こりや腰痛など、身体のメンテナンスのために訪れる人など、目的もさまざまです。
病院
病院の中でも多くの柔道整復師が働いているのが整形外科です。
整形外科で働く柔道整復師の仕事は、骨折からの整復やギブスの装着、リハビリ指導やテーピングなどがあります。
整形外科には外科医以外にも作業療法士・理学療法士なども働いており、患者さんも特殊な症例の人も多く訪れます。
そのため仕事をしながら柔道整復の知識がより深まるため、整形外科は柔道整復師にとって働きたい人気の職場となっています。
介護・福祉施設
最近では介護・福祉の場でも柔道整復師の需要が高まってきています。
老人介護施設では機能訓練指導員として、筋力が低下した介護が必要な老人に対して筋力を高める運動指導、体のことで悩んでいる高齢者のケアをしたりします。
超高齢社会において、老人介護施設からの求人は年々増加しています。
さらに今後需要が増加することも見込まれます。
介護の仕事に興味のある柔道整復師に向いています。
介護施設で働くことにより介護・福祉の専門家と接する機会が多くなります。
そのため自分自身の取得している柔道整復とは別の知識が得られることへの魅力を感じる柔道整復師もいます。
また場合によっては接骨院・整骨院で働くよりも収入がアップできる可能性があります。
スポーツの現場
テーピングの技術やけがの応急処置などを活かして、スポーツトレーナーとして働く柔道整復師もいます。
スポーツの現場で働く柔道整復師お仕事は主に選手のトレーニング、栄養管理、精神面でのサポートと多岐にわたります。
スポーツトレーナーの一員として、スポーツ選手を身近でサポートします。
スポーツ選手が怪我をした時も即座に状況を把握し、その場で最も適切な処置を施します。
また選手が怪我をしないように体作りの指導、日々のトレーニングメニューの作成も柔整師の仕事のひとつです。
試合中や練習中に発生した痛みやケガに即座に対応してくれる柔道整復師として、スポーツ選手との信頼関係を作ることも大切です。
開業・独立
柔道整復師としてそれぞれの現場で経験をつんだ後、独立開業をする柔道整復師も少なくありません。
独立すると集客や経営センスも必要になり、施術以外のことに時間もとられてしまいます。
しかし自分の自由に働けるというのは独立のメリットの一つです。
また出張柔整師として活躍したり、自宅開業をする場合には低コストで開業することも可能です。
場合によっては独立してしまった方が収入を大幅に上げることができる可能性があります。
柔道整復師の現状と将来性
「人生100年時代」といわれる日本にとって、いかに健康で長生きするかということに焦点が与えられる昨今。
「未病を防ぐ」という考えを基に成立する東洋医学の考え方を取り入れた柔道整復術は、
身体の仕組みに精通した医療従事として需要が高まってきています。
従来では『接骨院・整骨院の先生』という働き方が一般的でしたが、介護福祉医療やスポーツの場でも活躍が今後ますます期待されています。
介護・福祉の現場での需要
2000年から柔道整復師は、『機能訓練指導員』として働ける資格が付与されました。
機能訓練指導員とは、運動機能に障害のある人へのリハビリ指導ができる人のことです。
老人介護施設やデイサービスでは、この訓練指導員を最低1人配置することを義務付けられるようになりました。
そのため柔道整復師の求人も年増加しています。
また柔道整復師は5年以上の実務経験があると介護支援専門員(ケアマネジャー)としての受験資格を取得できるため、福祉・介護の分野でもステップアップが可能です。
スポーツ分野における需要
現在もっとも柔道整復師の活躍の場として注目されているのが、スポーツ業界でスポーツトレーナーとしての働き方です。
東京オリンピックや健康需要の増加により、今後スポーツに関わっていく仕事が増えてくるといわれています。
スポーツトレーナーとして鍼灸師や理学療法士、アスレチックトレーナーなどの有資格者も活躍していますが、柔道整復師は骨折・打撲・捻挫などのケガに対して手術をせずに施術をすることが可能なため、患部を確認してアイシングやテーピングなどの応急処置をすることができます。
またケガからの回復のリハビリテーションをサポートすることもできます。
柔道整復師という国家資格を取得して、医療従事者としてのスキルを発揮することにより、スポーツ選手から信頼されるスポーツトレーナーとして活躍することができます。
柔道整復師としての働き方と給与
柔道整復師として働く場合、お給料はどのくらいもらえるの?
気になる人も多いものです。
新卒で接骨院・整骨院に勤務した場合、初任給は約20~23万円が相場となっているようです。
働く職場によって左右され、中には初任給で28万円をこえるところもあるようです。
また働き方も正社員に限らず、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトと雇用形態もさまざまであり、時給換算で900~1500円ほどと働く地域や現場、業界によっても違いがでます。
平均年収は300~400万円程度であり、経験やスキルに応じて600~700万円程度にまで引き上げることができます。
独立・開業すると1000万円を超える場合もありますが、近年は整骨院・接骨院の競争が激化しており、高収入を得るのは難しくなってきています。
独立・開業で高収入を目指す場合、他にはないサービスを提供したり、経営学・営業について勉強したり他の柔道整復師と差別化を図る必要があります。
福祉医療・スポーツ業界にかかわらず今後は美容業界にも介入されることが期待される柔道整復師です。
どの業界で柔道整復師として働くとしても、高い技術力と経験、接客スキルが必要となるのは間違いありません。
まとめ
柔道整復師についての理解は深まりましたか?
超高齢化社会において今後ますます柔道整復師の需要が高まり、活躍の場が広がることが予測されます。
●柔道整復師とは柔術を基に行われる、出血を伴わない施術をすることができる
●柔道整復師になるには国家資格が必要であり、整体師は資格を必要としないため違いがある
●柔道整復師の仕事内容は『整復法』『固定法』『後療法』が主な仕事内容である
●世界では柔道整復術は『Judo Therapy』と呼ばれており、注目を集めている治療法である
●柔道整復師は介護・医療・スポーツの現場で活躍しており、今後その幅は美容業界にまで広がっていくと考えられる
●柔道整復師の年収は300~800万円ほどであり、働く業種や働き方によっても幅がある
今後美容整体、骨盤矯正など、美容の分野にも広がりをみせると思われる柔道整復師という仕事について、でした。
気になる人はいろいろと調べてみてください。